《 第14話 》 「暁の勝利」
【 あらすじ 】 黒衣の男・タイガーが節子を連れ去り、お由も松田警部たちを騙して逃げる。アジトへ向かうタイガーの前に現われた月光仮面。タイガーは銃を突きつけ正体を暴こうとするが、それはどくろ一味の一人だった。その隙に本物の月光仮面は節子を取り戻す。
月光仮面が節子を奪還した際、どくろ仮面一味に残した貼り紙
君たちのアヂトへ近日參上
マジックインキですが、縦書き・正字・歴史的假名遣ひ です。どうでもいいけど「インキ」は和蘭語だという。戦前まで「インク」でなく、「インキ」が多用されていた、とのこと。
場面は祝探偵事務所前。未舗装の道路を節子が清掃中。
節子 新聞少年に 「あっ、ご苦労さま。」と声をかけ新聞を受け取る。新聞を開いて 「あっ、お兄様、偉い。」とにっこり独白。
そこへ五郎八がスクータで帰ってくる。
節子 「あっ、五郎八さん。お兄様、やったわ。」と新聞を開きながら五郎八に渡す。
五郎八 「ん? 何々? おっ。『赤星博士生存。どくろ仮面一味を追って、本紙記者の追跡行。』 う~ん、こいつはホームランだ。」
節子 「あたし、お兄様に電話してあげる。きっとまだ新聞社にいるわ。」
五郎八 「うん、そりゃいいことだ。山本さんも、だんだん僕に似て、正義の人になるねえ。」
節子 「あら~ん。それは五郎八さんが似てくるんでしょ?」
五郎八 「むっ。そう言っちゃねえ。」
二人、顔を見合わせてクスクス笑う。
いいなあ。旧き佳き時代の日常生活が甦ってきます。祝探偵事務所は都区内某所ですが、表道路は未舗装で電信柱がある。門には牛乳受、傍に防火用水と木製の共同ゴミ置場。姉さん被りに前掛け姿の節子さんが箒で公道を掃いている。節子さんは祝事務所の使用人でもなければ、ましてや掃除の義務などない天下の公道ですよ。
こうして、貧しくとも(当時としては裕福な部類ではあるが)お互いが助け合い、譲り合い、幸せを分かち合って生きていたのですよね。その根柢にあったものは、共同体(公)の一員としての満足感でしょう。
もうずいぶん前ですが、「自分以外は全て他人」ということを書いたことがあります。その時は深い考えもなく、“独りぼっち”を強調したいがためでした。しかし、今になって、これは案外、日本人の共同体意識と関係があるのではないか、という気がしています。
日本語(國語)には、「身内」という語があります。
みうち 【 身 内 】
[1] からだじゅう。全身。
[2] 家族や近い親類。また、ごく親しい関係にある者。
[3] 同じ親分に属している子分たち。
ここで言う「身内」とは[2]を指します。英語では family で表しますから、「家族」と同義語のように扱われるようです。
「あっ、五郎八さん。お兄様、やったわ。」との節子の台詞は、五郎八を“身内”と認識しているからこそ、成り立つ言葉でありましょう。他人に対してなら、“お兄様”でなく、“家(うち)の兄”でなければおかしい。これですね、この意識。「日本=一大家族国家」たる所以は。
ありがとうございました。
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