■ 第二十二課 電 話
信吉の叔父は京城で呉服屋をしてゐます。信吉は始めて田舎から叔父の家に來て泊りましたが、見るもの聞くもの、皆珍らしく思はれました。
不意に店の隅で、ちりんちりんちりんと、しきりに鈴(りん)の音がしました。叔父は、急いで、壁ぎはに備へてある箱のそばに、立ち寄りました。片手にらっぱのような物を握って、それを左の耳にあて、箱に向って、ひとりごとを言ひ始めました。
「はいはい、さようでございます。はあ、清水さんで
いらっしゃいますか。はい、分りました。反物ですか。
只今持たせて差上げます。毎度ありがたうございます。」
信吉は此の樣子を見て、をかしくてなりません。
「叔父さん、それは何ですか。」
と問ひますと、叔父は
「これは電話といふもので、此のらっぱのような物を耳に
あてれば、遠方の人のことばも聞え、此の箱の口の所で話
をすれば、先方へそれが分る。此の線は、これ、この通り、
壁から外へぬけて、それから電柱をつたって、遠くまでつ
ながってゐるのだ。こちらの言葉も、向うの聲も、此の線
によって、自然と聞える。それは電氣の力だ。電氣といふ
ものは、重寶なものではないか。」
と言ひました。
・ 練 習
一、叔父は信吉に、電話のことについて、何と言って聞かせましたか。
二、次のことばを讀んで、「お」と「を」とのつかひ方に注意しなさい。
(イ)おかげ(御蔭) おぢいさん(祖父)
おばあさん(祖母) おとうと(弟) おに(鬼)
(ロ)をぢ(伯父・伯父) をば(伯母・叔母)
をかしい(可笑し) をととひ(一昨日)
をしへ(敎) うを(魚)
三、次の樣に、「ちょう」「ほう」の書き方に、色々あることに注意しなさい。
ちょう ちゃう。てう。てふ。
ほう ほお。ほふ。ほほ。はう。はふ。
やうやう「歴史的仮名遣ひ」の文になりましたね。ただ、「さよう(左様)」、「ような(様な)」、「向う」は、それぞれ「さやう」「やうな」「向ふ」だと思ひますが・・・。転記ミスでせうか。
練習二の「お」と「を」の使ひ分けも、よほど慣れ親しんでゐないと難しい。ここでは出てきませんが、「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」の使ひ分けもあります。「難(むずか)しい」は「難(むづか)しい」、「恥(はじ)」は「恥(はぢ)」なのですが、歴史的仮名遣ひで入力すると、「むずかしい」「はじ」の誤り、とパソコンに注意されます。
練習三の例としては、
ちょう→ 長・町(ちやう) 彫・鳥(てう) 蝶・帖(てふ)
ほう→ 法力(ほふりき) 頬(ほほ) 邦訳(はうやく)
法律(はふりつ) 「ほお」の例は不知
などがあるやうです。
ありがたうございました。
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