台湾の「現状維持」は事実上の独立を意味する
12/27(水) 6:02配信/Wedge電子版
2023年12月8日付のTaipei Times社説が、台湾の独立は既に「現状」であり、民進党が同党の台湾独立綱領を残すことは中国に対する台湾の政治的武器になり得ると論じている。
台湾独立という概念は、民進党の1991年の党綱領で初めて提唱された。党結成メンバーにより書かれた「台湾独立綱領」は、新憲法、新たな主権、独立した台湾共和国を提唱している。その目的は、国民党の独裁体制からの束縛から解放されることだった。
台湾の総統が民主的に直接選挙で選はれるようになると、中国共産党は選挙を台湾独立の先駆とみなし、95年から96年の台湾海峡危機に繋がった。選挙で民進党の綱領は争点となり、99年5月に同党は、独立の概念を主権国家としての台湾に修正する「台湾前途に関する決議文」を採択した。民進党にとり「台湾前途に関する決議文」は「台湾独立綱領」にほとんど取って代わられているが、同綱領を廃止してはいない。
台湾独立という言葉は多義に渡っているため、台湾独立論は議論を呼んでいる。それは、台湾共和国のため新憲法を制定することも意味し得るし、単に総統選挙を実施することも意味し得る。結局のところ、台湾が独立していないとすれば、なぜわざわざ総統選挙を実施するのか。
民進党は台湾独立綱領を棚上げしたことを、過去20年間の行動と実践で証明してきた。それゆえ、米中を安心させるため台湾独立綱領を放棄すると頼が宣言する必要はない。民進党がそうしたとしても、中国共産党は別の口実を見つけて、民進党には独立の意図があると言うだろう。
中国共産党は、台湾独立は両岸交流の最大の障害と主張するが、それは当たらない。頼は、2014年に上海の復旦大学で、「台湾独立論は民進党が誕生する前から存在していた」と述べている。
独立の理念は、台湾人が守り尊重すべき政治的姿勢である。中国共産党に台湾の民主主義を定義させないことで、台湾は自らのアイデンティティを維持している。独立綱領があったからこそ、「台湾前途に関する決議文」に深みが加わったのだ。政治環境が大きく変化したとはいえ、台湾の武器として独立綱領を残しておくことは良いことだ。
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上記社説は、台湾の「現状」を「台湾独立」との関係で如何に解釈するかについて論じたものである。国民党の総統候補の候友誼が最近、民進党総統候補の頼清徳に対し、民進党の「台湾独立綱領」を放棄するよう求めたことが本論のきっかけになっている。
このTaipei Timesの記述は特段新しいものではないが、総統選挙を控えた節目の時期である今日、これまでの台湾の歴史を再認識するうえで役立つものと言えよう。
民進党はもともと1991年に「台湾独立綱領」を採択した政党であり、「台湾独立」を目標とすることをその綱領の中で唱っている。しかし、99年には独立のトーンを抑え、「台湾前途決議文」を採択し、「台湾はすでに主権が確立した国家である」と規定した。
このような民進党内部の変化の背後には、96年の台湾海峡における中国の対台湾ミサイル危機があったに違いない。
振り返ってみれば、2000年から08年まで続いた陳水扁(民進党)総統下では、「中国が台湾に対し、武力を行使しなければ、台湾が独立を宣言することはない」との立場を取った。
08年から8年間続いた馬英九(国民党)政権下では、中国との間で「92年コンセンサス」と呼ばれる立場をとり、その内容は台湾側の解釈では、「一つの中国、各自表述」とされ、その意味は「一つの中国」とは「中華民国」を意味するものとされている。中国側にとっての「一つの中国」とは、あくまでも「中華人民共和国」であり、「一つの中国」という表現は、中台間で文字通り同床異夢の内容となっている。
今日、蔡英文下の台湾の立場は台湾がすでに主権の確立した国であるが、敢えてそのことを明言することによって、中国を無用に刺激、挑発しないとの立場であり、「現状維持」の立場を守りつつ、台湾政府として、民主、自由、人権の体制を堅持するとの立場をとっている。今日の台湾は、実態としていえば「中華民国(台湾)」ということなのだろう。
頼清徳候補の主張は
台湾の中には、台湾の現状を見れば、国連のメンバーではないため、国際的に孤立しているものの、中華人民共和国の統治下にはなく「事実上すでに独立している」のと同じであるとの見方をする人たちも少なくない。
次期総統候補である民進党の頼清徳は、かつて「自分は台湾独立のために仕事をする人間になりたい」との趣旨の発言をしたことがあるが、今日では、中華人民共和国との間では「対等で尊厳のある形」で対話できることを望むと述べ、基本的には蔡英文の「現状維持」路線を踏襲している。
頼清徳は最近の談話の中でも、「台湾を引き続き安定した道に乗せ、国際社会の中に入っていく」とし、「一つの中国という古い道に後戻りしない」と述べた。
このような状況下で、上記の社説が、覇権主義的な中国に対抗するため、かつて民進党が採択した91年の「台湾独立綱領」を存続させることは、有効な政治的武器となりうる、と述べているのは傾聴に値する。ただし、現実には、台湾にとっては、91年の「台湾独立綱領」を前面に押し出すのではなく、99年の「台湾前途決議文」に基づいた「現状維持」の立場を強化することが求められていると言えよう。
岡崎研究所
コメント総数;16件
一、
この記事を読むまで、私は「台湾はすでに主権が確立した国家である」と宣言した以上、独立綱領は中共を不必要に刺激するので取り下げた方が良いと考えていました。
しかし、この社説では「たとえ独立綱領を取り下げても、中共は別の口実で民進党には独立の意図があると言うだろう」とのことですね。確かにそうかも知れません。
二、
日本やG7やその他の国も、台湾人に対して中華民国の緑のパスポートでの入国を許可しているんだから、建前では国交が無いと言いながらも、実際には認めてるのと同じこと。
三、
日本やG7やその他の国も、台湾人に対して中華民国の緑のパスポートでの入国を許可しているんだから、建前では国交が無いと言いながらも、実際には認めてるのと同じこと。
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『中国の軍事侵攻即台湾独立!?』(12月19日付)で貼った林建良氏の主張は、肝腎な部分が視聴できないので、もやもやしていたところ、同じ趣旨ではないかもしれないが、本論説で合点がいった。
そもそも中国共産党が唱える「一つの中国(一个中国)」論は、台湾側が自らを「中国(の一部)」であることを否定した時点で既に破綻しているのだ。我らに「一つの日本」論なるおバカな論争が在るか。当然ながら寡聞にして聞いたことがない。なぜなら、我が日本國以外に「日本」を詐称する国家など存在しないからだ。つまり、「一つの中国」論は、二つ以上の中国が存在してこそ、はじめて議論が成立する命題に過ぎない。
その意味で、当時の日本領台湾に逃げ込んだ中国国民党が「大陸反攻」を唱えて占領統治していた頃、中華人民共和国(中国共産党北京政府)と中華民国(在台湾中国国民党亡命政府)という二つの中国が存在した時代の「一つの中国」であれば、同床異夢ながらそれなりに有効だったかもしれない。
しかし、今日に於いて蔡英文現総統自身も与党民進党も、台湾が「中国=中華人民共和国(の一部)」であることを明確に否定している。蔡総統が宣う【中華民國台湾】の中華民国が中華人民共和国の一部でない以上、蔡民進党政権下の台湾もまた中華人民共和国とは何の関係もない地域に他ならないのだ。
要するに、蔡総統ら民進党は、【中華民国台湾】は中国(=中華人民共和国)に隷属しないという現実を主張しているだけで、中国共産党が言う「台湾独立」を宣言しているわけでもない。もともと中国施政権の範疇外なのだから、わざわざ独立を宣言する必要もないわけだ。
先稿で、日本メディアの中国・台湾呼称について触れた。つまり、呼称だけ観れば台湾と中国がそれぞれ別(の国)であることを窺わせている。では、台湾の主要紙はどう表記しているか。
■中央通訊社(国営通信社)=中国・台湾
■自由時報(民進党寄り)=中国・台湾
■聯合報(中立系)=中国・台湾
■中国時報(国民党寄り)=大陸・台湾
■蘋果日報台湾版(香港系民主派)=2021年休刊
こうしてみると、中国国民党とその機関紙みたいな中国時報を除き、総統府・民進党はもとよりメディアの大多数が脱中国派(=台湾独立派)であることが分かる。結局のところ、李登輝が推し進めた民主化政策が、この方向性を加速させたと言える。李登輝という人は、国民党員でありながら、自らを「戦前は台湾生まれの〝日本人″」と放言して憚らないほどの親日家であった。
なお、引用したWedgeという月刊誌は、JR東海傘下の出版社が発する政治経済オピニオン誌なのだとか。政治的スタンスは反共右派と言ってよい。その点、中立的な見解ではないので注意が必要である。寄稿機関と思われる岡崎研究所とは元外交官岡崎久彦氏が立ち上げたシンクタンク。論調は推して知るべし。
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