なぜこうなった?三つ巴の台湾総統選
「一つの中国」めぐり中国当局が暗躍か
12/2(土) 11:02配信/JBpress電子版
2024年1月13日に実施される台湾総統選挙の候補登録が締め切られ、与党民進党、野党の国民党と民衆党の三つ巴(どもえ)戦の構図となることが確定した。
「一つの中国」めぐり中国・習近平政権が暗躍しているとの見方もあり、選挙の行方が米中を巻き込み地政学リスクに大きく影響を及ぼすのは必至だ。
選挙まであと6週間、各党の基本政策の違いや候補者の素顔、チャイナウォッチャーの見立てなどを詳報する。(JBpress;福島香織:ジャーナリスト)
11月24日をもって、台湾総統選挙の候補の登録が締め切られた。来年1月13日の台湾総統選は、与党民進党の頼清徳総統候補・蕭美琴副総統候補ペア、国民党の侯友宜総統候補・趙少康副総統候補ペア、民衆党の柯文哲総統候補・呉欣盈副総統候補ペアの三つ巴戦となる。
今回の総統選は、この形に落ち着くまで紆余曲折あった。最大の山場は、国民党と民衆党の選挙協力が成立するかどうか、だった。結果的に、この夢の野党協力は最悪の形で決裂。これで、民進党の頼・蕭ペアは総統選レースにおいて圧倒的優位に立つことになったのだろうか。選挙まであと6週間、その行方を占ってみたい。
当初、台湾総統選に候補として出馬すると公表していたのは4人。民進党候補で現在の蔡英文政権で副総統を務める頼清徳、国民党候補で2022年の九合一選挙で新北市長に最高得票率で当選した侯友宜、昨年秋まで台北市長を2期8年勤めあげた民主党候補の柯文哲、iPhoneなどの受託生産で知られる世界的大手EMS(電子機器受託サービス)企業・鴻海(ホンハイ)精密工業の創業者で無所属のテリー・ゴウこと郭台銘。
頼清徳は、蔡英文政権の後継者として、現状の政策を維持するとみられている。国防重視の親米派、経済的には中国依存脱却推進。中国の習近平政権は蔡英文も頼清徳も「台独派」として敵視している。
国民党候補の侯友宜は、中国との対話重視で、中国との経済関係も改善したいとしている。疑米派(米国への国防依存のし過ぎが台湾海峡の平和安定に悪影響をもつという考え)とみなされた時期もあったが、秋に米国訪問もしており、対米関係もそれなりに重視する素振りを見せている。
警察官僚出身の侯友宜は外交経験・センスが乏しい。真面目で朴訥(ぼくとつ)な人柄で有権者人気は決して悪くはない。だが、外省人(国民党とともに中国大陸から台湾に渡った人)ではない国民党の台湾人総統候補は李登輝以来であり、古い国民党支持者や党内の守旧派老人は不満に思っているかもしれない。党是としての「92年コンセンサス」を支持し、中華民国が唯一の中国という国民党としての「一中原則」は否定していない。
柯文哲は台北市長2期8年を勤めあげ、自身で「民衆党」を結党し、総統選に臨む。台北市政に対する市民の評価は悪くなく、既存の政党政治にうんざりし始めていた有権者の心を捉えて支持を増やしてきた。中国との対話重視、経済関係回復を目指すところは国民党と共通だ。しかし、国民党と決定的に違うのは「92年コンセンサス放棄」を主張し、台湾人として持つべきコンセンサスは民主的総統選挙がスタートした1996年に誕生したという「96年コンセンサス」を主張している点である。「一つの中国」原則のようなファンタジーは国民党も早々に捨てるべきだとしている。
この3候補に加えて、国民党の総統候補になれなかった郭台銘が無所属で出馬したが、彼は最初から話題作りだけの泡沫候補で、最終的に出馬登録はしなかった。
■にわかに浮上した野党協力だったが・・・
11月初めまでの民意調査の推移を見てみると、民進党・頼清徳候補が30%以上の支持率をキープし、侯友宜、柯文哲がそれぞれ20%前後の支持率でほぼ横並び状態だった。
三つ巴戦の場合、台湾の有権者は勝てない3番手候補に見切りをつけて、2番手に票を集める「棄保」と呼ばれる投票行動をとることがままある。だが、「棄保」現象が起きても、1番手が35%以上の支持率をキープできていれば先頭逃げ切り勝利の可能性が高い。
このため、三つ巴を崩して2大候補の対決に早々にもっていくことが、国民党、民衆党に残された勝ち筋だといわれていた。
そこで、11月に入り国民党、民衆党の「藍白協力構想」がにわかに持ち上がった。藍は国民党のシンボルカラー、白は民衆党のシンボルカラーだ。
与党の民進党と、野党の国民党・民衆党の間では、対中関係という最大の争点がある。民進党は中国との対立先鋭化を恐れないが、国民党と民衆党は中国との関係改善を目指す。この点については国民党と民衆党の選挙協力が探れる、というわけだ。また、民進党にとっては、8年ジンクス(台湾の政権は8年ごとに交代する)への挑戦の選挙であり、野党として国民党・民衆党がとにかく政権を交代させたいという有権者を一つにまとめられれば、民進党優勢が逆転する可能性はあった。
11月15日、馬英九前総統が仲介する形で、柯文哲と侯友宜、そして国民党主席の朱立倫で密室協議が行われ、柯文哲はこの時、藍白協力に同意した。この協力の最大のポイントは、最新の6つの民意調査の統計分析で、支持率格差を出し、侯友宜、柯文哲のうち、民意調査格差の上位を総統、下位を副総統とし、外交、防衛、両岸関係(中台関係)は総統が決定権を持つ、というところだ。
■国民党・民衆党の協力構想は破局に
馬英九、国民党、民衆党がそれぞれ信頼できる統計専門家を選び、喫緊の民意調査について分析することになった。だが、サンプル数も調査手法も異なり、それぞれが恣意的に結果を導き出した民意調査で意見の一致を導けるはずもなく、「統計論争」が白熱、藍白協力は暗礁に乗り上げた。
その後、出馬を取りやめる口実をちょうど探していた郭台銘が仲介者になって、再度、話し合いがもたれることになった。
23日の夕方、台北グランドハイアットで、郭台銘が招集する形で最終の話合いが行われることになったが、密室協議ではなく公開討論で決着をつけることになった。この討論の様子はYouTubeなどでも見ることができるが、郭台銘が朱立倫を「重量級の招かれざる客」と揶揄(やゆ)したり、「政党協力ではなく柯文哲、侯友宜、郭台銘の協力を話し合うつもりだったのに」などと言い出したり、柯文哲と侯友宜がお互い、不誠実だとののしりあったりして、実に険悪なものとなった。
討論は時間切れに終わったが、誰が見ても藍白協力は最悪の形で破局となり、翌日、侯友宜は趙少康という元政治家で今はテレビキャスターの老政治家を副総統に選び出馬登録、柯文哲は立法委員(国会議員)で英米通の才媛、呉欣盈を副総統に選んで出馬登記を行った。
■野党協力を仕掛けたのは中国当局か
さてこの藍白協力がなぜ突然持ち上がり、そしてなぜここまで最悪の形で破局したのかを、少し考えてみたい。少なからぬチャイナウォッチャーたちは、この降ってわいた藍白協力の仕掛人が実は中国当局ではないか、と疑っている。
米ニューヨーク・タイムズは、藍白協力の破局は、中国の最大の希望も破滅させた、と論評している。民進党の頼清徳、そして副総統候補になった蕭美琴はともに中国当局から「独立派」のレッテルを張られた「危険人物」。蕭美琴は母親が米国人のハーフであり、駐米台北経済文化交流代表処代表(駐米大使に相当)の外交通で米国通。つまりこのペアが次の政権になれば、米台軍事協力がさらに推進され、習近平が在任期間中に実現しようともくろむ中台統一が一番やりにくくなることになる。
では、中国として誰を総統に望んでいたかというと、やはり国民党の侯友宜であろう。なぜなら「一つの中国」「92年コンセンサス」を堅持しているのは国民党だけだからだ。
「統一」という言葉は、中華民国も「一つの中国」を主張していなければ、使えない。国民党と共産党はかつて内戦で戦い、国を2つに分けたという歴史があってこその統一であり、仮に中華民国が「一つの中国」に当たらない、というコンセンサスが台湾に確立されれば、中国が台湾を併合することは統一ではなく、侵略と呼ばれるべきだ、となる。
今回の総統選で国民党候補が当選しなければ、あるいは、三つ巴の3番手に落ち、極度に低い投票率で国民党の泡沫化が印象付けられたりすれば、一つの中国と言う概念も統一の根拠も完全に失われてしまうだろう。中国としては何とかしてそれを阻止したいことだろう。
そこで、中国の習近平政権は馬英九前総統を通じて藍白協力を仕掛け、柯文哲総統候補を副総統に取り込もうとしたのではないか、という想像が広がった。11月2日に馬英九基金会執行長の蕭旭峯が北京フォーラム参加のために訪中し、中国国務院台湾事務弁公室幹部らと面会したという報道があった。
馬英九サイドはこの時、中国から何かの指示を受けたのではないか。15日の藍白協力合意後の記者会見の柯文哲の表情があまりに憔悴(しょうすい)しており、柯文哲は中国共産党に何か弱みを握られており、それを中国から教えられた馬英九が柯文哲を脅して藍白協力を合意させたのではないか。柯文哲は心臓外科医として中国でも仕事をしており、たとえ倫理にもとるような移植手術や治療に関わったことがあるのではないか・・・。そんな憶測が駆け巡ったのだ。
このタイミングで、バイデンと直接会談をした習近平が、台湾統一のタイムスケジュールについて否定したことも、習近平は藍白協力によって国民党総統誕生が確実になると信じて生まれた心の余裕が言わせたのではないか、という見方があった。
■民衆党の支持率低下で民進党vs国民党に?
さて、こうして藍白協力は決裂。11月24日、民進党、国民党、民衆党の正副総統候補が出そろったあとの民意調査では、なぜか国民党の侯友宜・趙少康ペアの支持率が急上昇している。一番サンプル数が多いTVBSの調査では民進党ペア支持34%、国民党ペア31%、民衆党ペア23%。これはどういうわけだろう。
国民党の副総統候補の趙少康はテレビでおなじみの政治評論家でキャスターだが、その昔は、国民党守旧派の若手議員で1993年に李登輝に反発して、新党を結成し、2002年まで中国との再統一を目指す新党に所属。その後、テレビキャスターを本業として、政治から離れていたが、2021年に国民党に復帰。総統候補を狙っての復帰だとみられていた。
73歳のある意味化石のような老政治家なのだが、米国留学経験をもち、国民党の古い支持者に受けのよいインテリ副総統は、警官たたき上げで実務行政能力はあるが、朴訥で泥臭い印象の侯友宜の欠点を補った、ということか。あるいは民衆党・柯文哲の人気が急落したともいえる。藍白協力に一旦同意しながらそれを反故にした柯文哲はやはり支持者に対し誠実でない、と思われたかもしれない。
だが、民衆党・副総統候補の呉欣盈は新光集団創業者の孫娘で、英米政治の現場で仕事をしたこともあり、米証券会社大手メリルリンチのアナリスト経験もある経済、金融通。夫はベルギー貴族の男爵という国際派セレブ。実務実力や外交センスなど政治家として華や魅力は国民党ペアより上かもしれず、今後勢いを復活する可能性はまだある。
もし、このまま民衆党が脱落し国民党の支持率がこの上がり、三つ巴戦拮抗ではなく、民進党VS国民党の対決のかたちになるとしたら、鍵を握るのは民衆党支持者の「棄保」となる。これが、ひょっとすると国民党ではなく、民進党に流れる可能性がある。藍白協力がののしりあうように決裂したため、民衆党支持者としては侯友宜だけは勝たせたくない、と思うかもしれない。
■郭台銘(テリー・ゴウ)の謎の動き
ところで、藍白協力を最悪な形で破壊した民進党にとっての「最大功労者」が、中国との平和協議を公約に掲げて無所属で出馬しようとした郭台銘であったことが興味深い。
彼は大陸ビジネスで恩恵を受け、一番親中派とみなされてきた。だが、10月、ホンハイの中国拠点が中国当局から税務調査や土地利用をめぐる立ち入り検査を受けていることが明らかにされている。これは、ホンハイが中国市場から離脱しようとしているのに対し、中国側が圧力をかけているとみられている。
だが、そういうタイミングで、郭台銘が中国の一番嫌がることをやってのけたのは、わざとなのか、単に空気が読めないだけなのか。もし来年、頼清徳政権が台湾で誕生したら、民進党は郭台銘に礼を言わねばなるまい。
コメント総数;17件
一、
台湾政治が一筋縄ではいかないという事をうまく書いた記事だと思います。
但し、大陸中国との政治関係という大きな要素を脇において台湾内政について台湾のインテリの評判を聞くと必ずしも民進党の支持は高くないです。
かつての国民党馬英九政権がかなり露骨に大陸中国寄りだったので毀誉褒貶が別れるところなのだけどかと言って大陸中国との関係もそれなりに重視しないと台湾有事というリアルが迫ってくる訳でいざ台湾有事の際には必ずしも米軍が全面的には当てにならないと醒めている台湾人としてはギリギリのバランス感覚を取らなければならない訳で、もし民進党政権が成立してもそれは大勝にはならないと思います。
対米、対中外交に苦慮している日本としてはこれは決して対岸の火事ではないと思います。
二、
この記者は民進党に勝たせたいようだが、現実は野党連合破談で人気を失った民衆党への票は国民党に流れてるようで、政権交代しそうね。
『ETtoday世論調査雲』は1日に最新の世論調査を発表し、国民党「侯康配」は36.3%の支持を得て、民進党の「頼蕭配」の1.1パーセントしか差なかった。
世論調査によると、「頼蕭」は37.4%、「侯康」の支持度36.3%が上昇し、民衆党の「柯盈」は下落し、2割を下回り、19.6%が残った。
また、クロス分析によると、「侯康配」で成長幅が最も大きく、それぞれ95.1%の国民党支持者と87.0%の汎藍の支持を得て、前回の世論調査に比べてそれぞれ6.9%、13.1%上昇した。
「侯康配」は中間有権者、つまりどの政党にも支持しない人の支持度が8.7%大幅に上昇し、28.2%に上昇し、「柯盈配」の28.9%に近づき、「頼蕭配」は22%に落ちた。
三、
台湾人は日本人と違って、その複雑な歴史的背景から時代の変化に柔軟に対応できる(=せざるを得なかった)人々。安定を求めつつも変化のないことへの不安も併せ持つ気質において、政権交代は台湾人の欲求を満たすツールのひとつでもある。
ここにきて趙少康が国民党の副総裁候補になったが、老年といえども台湾では政治討論番組などでおなじみの方で、台北市長選にも出馬した過去があり今でも一定の人気がある。また、親米派としても有名で中国とのバランスを維持する点においては絶妙な人選であることは確かだ。
一本化決裂後、民衆党の柯氏の支持が落ち、相対的に国民党への支持が増えた。民進党は支持率がほぼ横ばいだが、副総裁候補の蕭美琴については過去の言動を嫌う人々もおり人気が両極端なため、今後支持がどこまで広がるか予測できない。
総統候補よりも副総統候補がカギを握るという珍しい展開になる気がする。
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相も変わらず台湾総統選に関する論説だが、、執筆者が福島香織氏なので11月28日付投稿の焼き直しみたいな内容になってしまうが、御容赦願いたい。ここでは見出しにもなっている「一つの中国」について深掘りしてみたい。
そもそも論というか歴史を紐解くと、国共内戦に敗れた中国国民党が占領していた日本領台湾に逃れた1948年から1949年にかけて、大陸に成立した中華人民共和国(中国共産党政府=略称;中共)と台湾の中華民国(中国国民党政府=略称;国府)の双方がお互いに「中国」を名乗って睨み合っていた。つまり、「一つの中国」とは中国共産党と中国国民党の謂わば中国人同士の縄張り争いなのだ。
中国人同士の争いに巻き込まれたのが国際法上は未だ〝日本人″のままだった台湾人民である。中華民国軍(実質は中国国民党軍)の台湾占領はさらに遡ること1945年9月のこと、日本軍の武装解除を名目にそのまま居座り続け、1947年には「二・二八事件」として悍ましい台湾人(=日本人)大虐殺事件を起こしている。
「二・二八事件」は、自分が生まれる一年前なので、子供の頃は全く知らなかった。知ったのは台湾映画『悲情城市』(1989年)を観てからだ。ドキュメンタリーではなく飽くまでドラマだから、これを以て「史実」とは言い難いにせよ、凄惨極まりない内容であった。
初訪台は1980年(昭和55年/民國69年)、蒋介石の息子蒋経国総統の時代であった。今では台北・桃園国際機場(TPE)と呼ばれているが、当時は台北・蒋介石(通称;中正)国際機場が正式名称だった。台北市内の松山機場(TSA)は台湾(離島含む)国内線専用空港であった。百貨店の天井には空襲に備えた避難経路を示す矢印が掲げられ、鉄道橋には歩哨が警戒する物々しさであった。何せ、戦時(戒厳令)下にあったのだ。
中国国民党にとっての仇敵であった日本の文化全般が禁止されていたものの、日本の雑誌・書籍が公然と店頭に並び、貸ビデオ店では、数日前に放送された日本のドラマが、中文字幕付きで貸出されていた。日本語学習熱も異常に高く、日語補習班(日本語語学塾)は大繁盛であった。
強権的な中国国民党一党独裁政治と比較するかたちで日本統治時代を懐かしむ風潮がそうさせたのであろう。一事が万事、尽く対照的であったからだ。要するにゲマインシャフト(共同体)とゲゼルシャフト(利益体)の社会構造自体が真逆になっているのだ。利他主義か利己主義かという思想的背景がそうさせたのであろう。
【ゲマインシャフト(共同体)】-Gemeinschaft-
ドイツの社会学者テンニエスの用語。
生得的、有機体的な本質意志によって結びついた自然的、有機的統一体の社会。
血縁に基づく家族、地縁に基づく村落などを含む。
現在では共同社会、コミュニティーと同義。
【ゲゼルシャフト(利益体)】-Gesellschaft-
ドイツの社会学者テンニエスの用語。
共通の目的のために成員の自由意思に基づいて形成された社会。
会社、組合など。都市、国家なども含む。利益社会。
【利他主義】
他人(≒世の中)の幸福や利益を第一の目的として行為するように勧める考え方。
「愛他主義」ともいう。
【利己主義(エゴイズム)】
自分の利益や自分の立場だけを考え、他の人や社会一般のことは考慮に入れず、わがまま勝手にふるまう態度。身勝手。エゴイズム。
こうして学術用語を並べると、却ってややこしくなってしまうなあ。簡単に言ってしまえば、我ら日本人は西洋的個人主義(≒利己主義)とは異なる独自の考え方を具備している。その原点にあるのが【人間は一人では生きられない】という諦観だ。生まれたての嬰児は、親ないし親代わりの養育者が居なければ忽ち死んでしまう。この無償の親心に至高の価値を見出したのだ。一人で生きられないなら、お互いが助け合えばいいじゃないか、と。それが、近代になって『教育勅語』の〝公益世務(世のため人のため)″へと受け継がれていったのである。
日本領であった戦前台湾の学校は、台湾人児童生徒を含めてみんな教育勅語に則った教育が施されていた。戦後78年経った今日、教育勅語世代は殆ど他界し、中国国民党独裁下で育った40歳前後以上の世代と、民主化後の教育を受けた若年層では考え方の相異があるかもしれない。台北で烏龍茶販売店を営む同い年の友人が居るが、1980年代当時、夫婦間は台湾語、小学生の一人娘とは北京語で会話していた。
余事ながら、台湾の公用語は戦前が日本語なら、戦後は北京語。中共が独立派と見做す民進党は。台湾語を何故公用語(≒母国語)にしないのか、甚だ疑問に思う。人間の思考は、用ゐる言語に依存するのである。
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