またまた出たバイデン大統領の「弱腰」「短慮」
株上げたのは訪台・ペロシ氏だけ
林外相「政府としてコメントする立場にない」と相変わらずの情けなさ
2022.8/6 10:00配信/夕刊フジWEB版
【ニュースの核心】-寄稿;長谷川幸洋-
米国のナンシー・ペロシ下院議長が2日夜、台湾を訪問し、蔡英文総統と翌日会談した。中国は「人民解放軍は決して座視しない」などと猛烈な圧力をかけていたが、蓋を開けてみれば「空脅し」だったことがバレてしまった。
それはいいとして、見逃せないのはジョー・バイデン大統領の「弱腰」と、無定見とも言える「短慮」である。コメントを拒否した「政界屈指の親中派」こと、林芳正外相の情けなさも相変わらずだ。
中国が振り上げた拳は、いつになく激しかった。
中国外務省は「主権と領土の一体性を守るために、断固として強力な措置をとる」と繰り返し、ペロシ氏が訪台すれば、いまにも戦争を始めかねないような勢いだった。
これを受けて、米軍は原子力空母「ロナルド・レーガン」を派遣し、戦闘機編隊による護衛に加えて、万が一、搭乗機が墜落した場合に備えて、米メディアは「ヘリコプターによる救出作戦も準備している」と報じていた。
ところが、ペロシ氏の搭乗機が飛来しても、中国軍機が異常接近するでもなく、拍子抜けしたように、搭乗機はすんなり台北市の松山空港に着陸した。
中国軍は4日から7日まで、台湾を取り囲むように大規模な軍事演習をすると発表したが、これこそ「後の祭り」である。さんざん脅した揚げ句、何もしないわけにはいかず、国内向けにポーズをとってみせた、にすぎない。
なぜ、こんな騒ぎになったかと言えば、火を付けたのは、バイデン氏である。フィナンシャル・タイムズが7月19日、「関係者6人からの情報」をもとに、訪台計画を報じると、記者団に問われた大統領は「米軍は『いい考えではない』と思っている。自分は状況がどうなっているか、知らない」と語った。
いきなり「米軍」という言葉を持ち出して、暗に「バイデン政権は賛成していない」と牽制(けんせい)したのだ。これが、いかに短慮だったか。
ペロシ氏が訪台を見送れば、中国の圧力に屈したかたちになり、ペロシ氏もバイデン政権も「弱腰批判」を避けられない。逆に、ペロシ氏が訪台を強行したら、バイデン氏の「求心力のなさ」がバレてしまう。どっちにしろ、政権にプラスにならないのだ。
バイデン氏は、ロシアによるウクライナ侵攻では、侵攻前の昨年12月に「米軍は派遣しない」と語り、「侵攻を促す結果になった」と批判を浴びた。昨年8月の米軍のアフガニスタン撤退でも、米軍幹部の反対にもかかわらず、早い段階から「8月撤退」を公言し、発言を撤回しなかった。
撤退時期を事前に言ってしまえば、武装派勢力がそれに合わせて攻撃計画を練るのは当然だ。結果として、撤退直前にテロ攻撃され、米兵13人の命が失われてしまった。重大局面での大統領の失言、妄言は、いまや定番である。
岸田文雄首相はと言えば、台湾をめぐる緊張が高まったタイミングで、ニューヨークでの核拡散防止条約(NPT)再検討会議に出席して「核廃絶」を訴えていた。世界が激動するなか、いつまで「お約束のセリフ」を吐けば、気が済むのか。
林外相は2日の記者会見で、ペロシ氏の訪台報道について、「政府としてコメントする立場にない」と語った。ここは、基本的価値を共有する台湾を強く支持する局面ではないか。
結局、ペロシ氏1人が株を上げた訪台になった。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。
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長谷川氏は左派からの転向組である。その点、故西部邁などと同類だが、我国の伝統に根ざした保守派とは言い難い気がする。どちらかと言えば、英国保守党や米国共和党に近く、根が西洋脳ではないかとの疑念が残る。
中台関係を観るに当たって、中国(共産党)が唱える「一つの中国」について整理しておきたい。終戦直後、日本軍武装解除を名目に中国(国民党)軍が日本領の台湾を占領していたが、国共内戦に敗れた蒋介石ら党幹部が台湾に逃れたのが1948年である。当時、中国国民党政府(中華民国)が国連の原加盟国で中国代表権を有していた。共産党政府(中華人民共和国)の成立は1949年のこと。在台湾の国民党政府が「中国」を名乗り、後発の在北京共産党政府は国連非加盟だった。敗戦国日本も未加盟(加盟は1956年)。
中国(共産党)が宣う【一つの中国原則】
① 「中国」は世界に唯一つ、〝中華人民共和国″だけ。
② 〝台湾″は「中国」の不可分な領土。
③ 〝中華人民共和国″は、「中国」を代表する唯一の合法政府。
「一つの中国」は、中国共産党政府の国際連合加盟(1972年)に際して作り出された中共の論理(プロパガンダ)にすぎない。国連(UN)は、それまでの国際連盟(UL)に代わる国際組織として、その名のとおり第二次世界大戦で勝利した連合国が結託して出来た団体だ。当然ながら戦勝国に「中華民国」が含まれるが、戦後生まれの「中華人民共和国(1949年成立)」などまるでお呼びでなかったのだ。
しかし、国連の「中国代表権」を、台湾に逃れた「中華民国(=中国国民党政府)」が握っていた事情は別として、ソ連などの東側諸国を中心に「中華人民共和国(中国共産党政府)」を国家承認していたのも事実である。かつ、戦後歳月を経るにつれ小さな島国台湾だけを「中国」と呼ぶのは可笑しい、との国際輿論が醸成されつつあった中、西側陣営のフランスなどに続いて、旧敵国の日本も中共政府を承認(1972年)するに到り、急速に国連への中共招聘気運が高まっていった。
'72年当時、蒋介石率いる中国国民党一派は「大陸反攻」を党是としており、同床異夢とは言え【一つの中国】はまがりなりにも成立していた。なお、中華民国(=中国国民党)軍が日本軍の武装解除を大義名分にして台湾を占領した1945年9月は、国際法上未だ日本領土であった。ゆゑに、1947年2月28日の台湾占領軍(中華民国軍=中国国民党軍)による現地住民大虐殺事件は、日本人大虐殺事件でもある。何故なら、当時の台湾人は、国籍上は全て「日本人」だったからに他ならない。
当時を知る台湾人たちは、中国国民党や中国共産党の人権無視の残虐非道な体質を肌で感じ取っているのだ。更に、戦後七十七年の時を経て、台湾の国内事情も大きく変わった。即ち、土着政党の民主進歩党が中国国民党から政権を奪取しており、国民の間でも若者たちほど、中国人とは異なる台湾人としての自覚が芽生えつつある。要するに、中国国民党独裁政権時代ならいざ知らず、もはや【一つの中国】は論理破綻しているのだ。
原則のうち②を除けば、当の「台湾」はもとより異論を唱える者はいまい。裏を返せば、「台湾」が「中国」の一部とは誰も認識していないことになる。にも拘らず、なぜ中共は声高に【一つの中国】を強弁するのか? 答えは簡単、②のウソがバレるから。【(問うに落ちず)語るに落ちる】という言葉があるが、今日の中共政府が真にこれである。
【語るに落ちる】
問い詰められるとなかなか言わないが、勝手に話させるとうっかり秘密を喋ってしまう。
今回のペロシ訪台で②のウソが白日の下に曝されたのだ。黙っていればいいものを、中共御用メディアが〝ペロシ訪台阻止″を雄叫び勇ましく世界中に拡散したのが裏目に出た。結局、中共軍は手も足も出せぬままペロシ氏の訪台を許してしまったからだ。振り上げた拳を下ろしようがなく、対象(ペロシ離台)が去った後、台湾包囲の大規模軍事演習でお茶を濁す情けなさ。これが【溺れる狗は叩く(弱い者いじめ)】ことしか出来ない習近平独裁政権の末路なのだ。
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