「中国時代曲」に照らせば、1937年デビューの周璇さんとほぼ同時期に活躍したスターが、〝第一世代″に当たる。幾人かの該当者がいるにはいるが、周璇人気が突出していて、殆ど経歴すら不明の場合が多い。簡体中文版「維基百科(ウィキペディア)」によると、1940年代に「上海七大歌星」と謳わたのが周璇、白虹、白光、姚莉、龔秋霞、李香蘭(山口淑子)、呉鶯音とある。
★龔秋霞(1918-2004)
紹介する『秋水伊人』を除けば、華字圏でヒットしたかは知らねど、個人的なお気に入り曲は皆無に等しい。デビュー時19歳だから、周璇・李香蘭らの姉貴分に当たる。それにしてはナヨナヨした頼りない歌唱である。
「秋水伊人」(1937年)-映画《古塔奇案》主題歌
作詞;賀緑汀/作曲;賀緑汀/唱;龔秋霞
作詞作曲者賀緑汀(1903-1999)は、①で採り上げた『四季歌』の作者でもある。当時、中国国民党の金城湯池下にあった上海に於いて、公然と左翼活動を行っていた人物。戦後、中共に取り入り、文芸面で中共政府の表舞台を歩んでいる。そういう意味では、田漢や聶耳ら日本留学組の受難とは対照的である。
邦訳歌詞があるのでご参考までに。
秋の水を見つめても 愛しい人の面影は見当たらない
夜が更けて一羽の雁が二三度鳴いた あの頃の思い出はただ寂しさを募らせる
夢の中でも愛しい人に会えはしない 襟が涙で濡れていた
いつ帰るのだろう? 私の愛しき人よ いつあの林を抜けて戻るのか
塔の影も鴉の群れも昔のままだよ 娘だけはgrン機で無邪気に育っている
君が遺してくれた娘だけが 私の心を慰めてくれる
黄暁君は馬來西亜生まれ。'70-'80年代に新加坡を中心とする華字圏で活躍した歌手だとか。音源はマレーシア盤なれど、買ったのは新宿・新星堂であることが包装フィルムの価格表示から判明している。
★白光(1919-1999)
この人は戦前から関東軍(日本陸軍)との繫がりがあり、来日して三浦環に師事したり、戦後も新東宝映画『恋の蘭燈』(1951年)に出演して池部良と共演するなど、共産中国より日本で有名になった女優であり歌手である。戦後は香港を活動の拠点にしていたが、1969年にマレーシアを訪れた際、20歳も年下のファンに惹かれて結婚している。
「嘆十聲」-香港映画《蕩婦心》挿入歌(1949年)
作詞;黎平/作曲;方知/唱;白光
オリジナルが1949年、つまり戦後のリリースとなるが、戦前から現地(上海)では物乞いが何某かの金品を恵んでもらう芸として、これを歌っていたと聞く。純情可憐な周璪とは対極にあって、演技とは言え姐御っぽい虚無的な歌唱法は評価が分かれるところだろう。個人的には、あまり好まない。
この曲はテレサテンの香港演唱会ライブ録音ミュージックカセットテープで知った。
テレサテン盤(録音;1982年)
テレサテンの歌唱は、純情可憐とは言い難いものの健全さを留めているという意味でどちらかと言えば周璪路線に属するだろう。
オリジナル盤の感想と矛盾するが、姐御肌の歌い方を割り引いても、伝統楽器主導の伴奏が期待するチャイナムードを醸し出して、これが一番の好みになっている。
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