タイトル『女流提琴家(ヴァイオリニスト)の饗宴』に選んだ曲は、ブラームス《ヴァイオリン協奏曲ニ長調》。華やかな女性陣には不似合いな渋い曲だ。「競演」でなく「饗宴」としたのはウラ若き女流奏者を意識してのこと。何でミスマッチとも思える曲を選んだかというと、たまたま諏訪内根自子さんがこの曲を奏でるのをYouTubeで発見したからだ。録音年順に聴き比べてみよう。
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲(1948年録音)
by ジネット・ヌヴー(1919-1949年/29歳)仏蘭西国籍
共演;ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮;NDR交響楽団(ハンブルク)
飛行機事故で夭折(30歳)したため、天才ヴァイオリニストとして神格化された伝説の人となった。なるほど、ラヴェル『ツィガーヌ』など確かに絶品である。しかし、29歳のおフランス娘にブラームスの内気な男心を理解しろ、と言うほうが無理であろう。熱の籠ったオーケストラに引きずられてか、かなり若いブラームスである。しかし、青春の表現としての明るさ一辺倒でなく、、翳りを見せるところなどはさすがである。少なくとも、途中で聴いているのが厭になるような駄演でないことだけは確か。かといって、名演とまで言えまい。佳演ということにしておこう。
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲(1949年録音)
by 諏訪根自子(1920-2012年/29歳)日本国籍
共演;上田仁指揮;東宝交響楽団
YouTubeに登場する諏訪さんは、概ねセーラー服姿の写真が使われているため、永遠の美少女といったイメージだが、これは29歳時の戦後録音。NHKラジオ番組用放送録音だとか。音が貧しく聴き取り難いが、テクニック(技術)的にはお世辞にも御上手とは言い難い。けれども、ヴァイオリンを〝鳴らす″のではなく〝奏でる″、即ち真の音楽家タイプなのだと思う。その証拠に、ヴァイオリンとかオーケストラとかどうでもよくて何時の間にか音楽に引きずり込まれて行く。これはもう西洋音楽を離れて「侘(わび)・寂(さび)」の世界だ。こんな日本的で物悲しいブラームスを聴いたことがない。諏訪さんは戦前戦中にかけて欧州r演奏ツアーを実施ている。クナッパーツブッシュ/ベルリンフィルとの共演で、ベートーヴェンの協奏曲を演奏(1941年/21歳)したらしい。どんな演奏だったのか、録音が残されているなら、ぜひ聴いてみたい。
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲(1981年録音)
by アンネ=ゾフィ・ムター(1963年-/18歳)独逸国籍
共演;ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮;ベルリンフィル
このCDを持っているが、一度聴いただけでいやになったため、長らく聴いてなかった。何がイヤかといったら、女だてらに腕っ節で力任せに鳴らすような男勝りなところがである。能天気なカラヤンの伴奏も酷い。これが本場独逸のスタイルなのかもしれないが、デリカシーに欠けるブラームスなど御免蒙りたい。
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲(2005年録音)
by 庄司紗矢香(1983年-/22歳)日本国籍
共演;アラン・ギルバート指揮;NDR交響楽団(ハンブルク)
オケが北独逸の楽団ということもあろうが、日本的な要素など微塵も感じられない。ムター盤より幾分マシな程度で、再度聴こうとは思わない凡演。戦争を挟んで世代も違うが、諏訪さんとは雲泥の差がある。テクニック(技術)を言うのではない。一介の職業的ヴァイオリン弾きか、真の芸術家と呼べるかの到達レベルを問うているのである。
コメント