前稿『ゲマインシャフト作戦』を書いていて、急に台湾流行歌『眞情』(1974年)という曲を想い出した。中共の酷いいじめに遭う台湾への同情が、世界中から集まっていることに関し、「真情」の言葉がぴったり当て嵌まる気がしたからだ。
実はこの曲、七年前にも採り上げたことがある。
1970年代台湾出身歌手たちの日本語曲(2014年12月23日付)
日本語で「真情」という言い回しは、あまり一般的ではないが、【まごころ】とか【本当の気持】とか言った意味に遣われる。北京語でもほぼ同様だが、この曲に限ってはYouTube動画に〝true love″のサブタイトルが付けられているとおり、〝純愛″といったニュアンスがかなり強いようだ。
眞情(1974年)-歌林唱片盤-
by 蕭孋珠(シャーリー・シャウ)
作詞:林煌坤
作曲:和田香苗
原唱:蕭孋珠
原曲:蕭孋珠 - 潮路(日文)
聽到你一聲再會(さようならの声が聞こえる)
我流下幾滴眼淚(涙が流れ出る)
在這個静静夜裡(この静かな夜に)
我們要離別(私たちは別れ行く)
希望你不要傷悲(あなたが悲しまないことを願う)
我會早去早回(私はさっさと去って帰る)
讓我們輕輕說再會(お互いにそっと「さようなら」を交わそう)
我的愛仍留在你心扉(私の愛はあなたの心の中に)
只要你心中有了一個我(あなたが私を心に抱く限り)
我就得到安慰(私は気が休まる)
在每個甜甜夢裡(お互いの甘い夢の中で)
我們俩相随(私たちは一緒になる)
只要你眞情可貴(あなたの貴重な愛がある限り)
除了你不再愛誰(あなたを除いて もう誰も愛さない)
讓我们輕輕說再會(お互いにそっと「さようなら」を交わそう)
你的情在我心徘徊(あなたの愛が私の心に残るから)
自動翻訳ながら邦訳してみると、意に反して単なる恋愛歌ですね。
今回知ったことだが、上記歌詞タイトルにあるとおり、何と日本語盤『潮路』のほうがオリジナルなのだとか。七年前の投稿では、『眞情』がオリジナルで、『潮路』がその日本語版と勘違いしてました。謹んでお詫び申し上げます。
潮路(1974年)-日本コロムビア盤-
by 蕭孋珠(シャーリー・シャウ)
作詞:三浦康照
作曲:和田香苗
日本語だから、敢えて歌詞は付さない。尤も、動画に歌詞字幕が出るので、それをご参照ください。で、『眞情』は北京語で歌われているが、台湾流行歌には言語によって二種類に大別される。一つは台湾語で歌われるもの、CDジャケットに「台語」と表示されている。もう一方は、北京語で歌われるもの。こちらの表示は「國語」である。
前者は泥臭い演歌調の曲が多い。戦前に作られた旧い歌謡曲や台湾民謡などは、大抵こちらの範疇に入る(台湾語なので)。昔は、日本の歌謡曲を台湾語に置き換えただけのレコード(唱片)も、たくさん出回っていた。後者は、ポップス曲(含;ポップス系外国曲カヴァー盤)も含めて、概ね若者層をターゲットにした曲が多い。当然、アイドル系も大半は後者に属する。
北京語で歌われる『眞情』を「ゲマインシャフト作戦」と結び付けたのは失敗だった。なぜなら、ゲマインシャフト(共同体)のイメージには合わない。もっと、ローカル(地方)色が濃厚でなくてはならない。そうすると、戦前の曲だろうか。二曲挙げておこう。
台湾楽しや(1942年)
by 胡美芳
作詞;辰巳利郎/作曲;山川康三
戦前(日本統治時代)の歌なので、日本語歌詞がオリジナルである。オリジナル歌手は、霧島昇&渡辺はま子だとか。この音源は、おそらく戦後録音されたと思われる。歌詞は四番まであるが、二番が中文に改作されている。台湾語でなく、北京語なのが惜しい。なお、このカセットテープ(音楽帯)、1980年代の台湾旅行の際に買ったもの。
望春風(1933年)-台湾(=日本)コロムビアSP盤-
by 純純
作詞;李臨秋/作曲;鄧雨賢
この音源がオリジナル。昭和初期の雰囲気丸出しの、情緒もヘチマもない歌い方である。何故かというと、それまではラッパ(機械)吹込のため、大声を張り上げないと音声が採取出来なかったからだ。歌詞は、一目惚れした男性との恋愛に憧れる少女の様子を描いているらしいが、そんな歌唱法ではない。
なお、初訪台時(1980年)、少し台湾語を勉強したことがある。だが、この歌詞で解るのは、「呆勢(ぱいせい)-恥ずかしい-」だけしかない。
望春風-1995年録音-
by 鳳飛飛(ふぉん・ふぇいふぇい)
テレサ・テン(鄧麗君)や蔡幸娟など、国際的な有名どころのカヴァー盤もあるけど、台湾国内で絶大な人気を得ていたこの人の盤を推したい。〝これぞ台湾″の雰囲気があるからだ。本来、明るい曲なのだが、翳りの濃い声質と相俟って、何だか物悲しくなってしまう。でも好きだなあ。
*おまけ*
大地は招く(1941年)-日本コロムビアSP盤-
by 霧島昇
作詞;越路詩郎/作曲;鄧雨賢
《追伸》-2021.8.21
これ(↓)を忘れていた。
牽絆(ちゃんばん;「結びつき」の意)-1992年
by 陳艾湄(ちぇん・あいめい)
作詞:譚健常 作曲:譚健常
你輕輕道別離黯然無語 我也忍不住哭泣
你說你該道歉還是沉默 為這改變不了的錯
你讓我在風中苦苦等候 在風中獨自顫抖
好容易才等到你的到來 只是告訴我你要走
你是我心頭的一份傷痛 恨只恨命運捉弄
我是你行囊中一份牽掛 牽不住你的行
李登輝時代の訪台時に買ったカセットテープのアルバム名。早い話が失恋歌なのだが、曲名を英訳すると[bind]、即ち「結び付ける(結束する)」という意味もある。陳さんは台北体育大学舞踏(「武闘」ではない)科出身、所謂「体育会系」である。
コメント