バッハ『カンタータ第8番』
《いと尊き御神よ、いつ我は死なん》
-三位一体節後第16日曜日用-
1724年9月24日に初演されたコラールカンタータ。C.ノイマンのコラール(1690年頃の新作)に基づいて構成されている。その趣旨は、イエスの死とともにある死が、新たなる生命への第一歩であることを主張するもの。当日の礼拝の主題である「死」を巡る四曲のカンタータの中でも、この第8番は、過ぎ去り行く時への哀惜の念に満ちていて、ことのほか感銘深い。冒頭合唱では、死へ向かう刻々の流れ、土へ還る宿命への仄かな諦観が歌われ、幾重にも響く弔鐘が、これを伴奏する。続くテノールのアリアでは今際の時の恐れが歌われるが、通奏低音には、なお鐘が響いている。深まる悲しみ。しかし、イエスに目を向けることによって患いはすべて吹き払われ、舞い上がるフルートに乗せて、バスが、イエスのもとに赴く喜びを歌う。こうして神の不死が認識され、善き死を与え給えとの祈りが動きのある小コラールとして歌われて、曲は終わる。バッハは1747年頃に簡略なニ長調の新稿を作成したが、ディスクでは初稿が演奏されている。
-礒山雅氏の解説(リヒター盤ライナーノーツより)-
* 楽曲構成 *
第1曲-コラール合唱(四声部)、ホ長調/C.ノイマン作コラール第1節
第2曲-アリア(テノール)、嬰ハ短調
第3曲-レチタティーヴォ(アルト)
第4曲-アリア(バス)、イ長調
第5曲-レチタティーヴォ(ソプラノ)
第6曲-コラール(四声部)、ホ長調/同上コラール終結(第5)節
生命至上主義が蔓延る当世の流行に逆らうかのような、「死」を待望する浮世離れした曲名だが、わりかし好きなカンタータである。
保有CDは、次のリヒター盤のみ。けれども、マタイ受難曲(初録音盤)と同年の録音で、オーケストラこそ異なれど、声楽陣は同じ顔ぶれで鑑賞に不足はない。尤も、アンスバッハ郡とミュンヘン市は同じバイエルン州、かつ約150㎞しか離れておらず、臨時編成ゆゑに、殆ど手兵の楽団員と言って差し支えあるまい。
リヒター盤(1959年録音)
指揮;カール・リヒター
アンスバッハ・バッハ週間管弦楽団
ミュンヘンバッハ合唱団
ウルズラ・ブッケル(ソプラノ)
ヘルタ・テッパー(アルト)
エルンスト・ヘフリガー(テノール)
キート・エンゲン(バス)
オーレル・ニコレ(フルート)
ホルスト・シュナイダー、エドガー・シャン(オーボエ)
おどろおどろしい前半と、喜び溢れる後半の対比が見事。このカンタータのキモであるテノール(ヘフリガー)とバス(エンゲン)の男声独唱アリアが素晴らしい。リヒター晩年の緊張感を欠いた凡演がウソみたいな、信仰上の静逸さが横溢する名盤と言えよう。
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