バッハ『カンタータ第24番』
《まじりけなき心》
-三位一体節後第4日曜日用-
トーマスカントール就任の直後に書かれた、ライプツィヒ・カンタータの第3作(1723年6月20日初演)、ノイマイスターによる台本は、福音書章句の語る他者への寛大の勧めを、マタイ伝の並行個所を引用する形で、中央に置く。このためカンタータは、中央の合唱曲の後にアリアが配されるという対称形になっている。しかしアリアが大合唱曲の先触れをなす配列は、バッハには先例がない。
冒頭のアルトのアリアは、飾りのない心を「ドイツ的」として讃える。「自分のしてもらいたいことを人(他者)に」という趣旨のマタイ伝の章句は、プレリュードとフーガを思わせる形の大合唱曲に作曲される。悪しき心の飾りを非難するレチタティーヴォに「誠と真実」を掲げるテノール・アリアが続き、最後に神の公正が、小コラールで讃えられて終わる。
-礒山雅氏の解説(リヒター盤ライナーノーツより)-
自分がこの曲を何故好むのか、解説文を読んで分かった気がする。ドイツ語歌詞を解せないくせに妙な話だが、我ら日本人の心情に適った曲趣だからだろう。保有CDは次の二種。
ラミン盤(1952年聖トーマス教会でのモノラル録音)
指揮;ギュンター・ラミン(トーマスカントール)
ライプツィヒゲヴァントハウス管弦楽団
ライプツィヒ聖トーマス教会聖歌隊
エヴァ・フライシャー(アルト)
ゲルト・ルッツェ(テノール)
ハンス・ハウプトマン(バス)
悠揚迫らぬテンポが心地よい。モノラル録音にも拘わらず、実演(ライブ)で聴くような臨場感を伴っているのは、巧拙は別にして合唱及び独唱陣が。真剣勝負さながらの気迫を以て歌っているからだろう。「尽誠報国」ならぬ「尽誠報神」ですね。敗戦国という意味では東西分断ドイツも我国と同じだったはず。吾輩は未だ満四歳、戦禍累々たる昭和27年の録音である。
リヒター盤(1975年録音)
指揮;カール・リヒター
ミュンヘンバッハ管弦楽団&合唱団
アンナ・レイノルズ(アルト)
ペーター・シュライヤー(テノール)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バス)
巷間では有名歌手かもしれないが、シュライヤーの歌唱が嫌い(生理的に受け付けない)なので殆ど聴くことはない。ラミン盤があれば他は要らない。
なお、ラミン盤には演奏用途不明のBWV117が入っている。バッハのカンタータは、教会暦に従ったもののほか、葬儀・哀悼行事用、結婚式用、ライプツィヒ市行事用などもあるけれど、曲趣がどれも該当しないらしい。ともあれ、割愛するには惜しい佳曲なので、是非採り上げておきたい。
バッハ『カンタータ第117番』
≪賛美と栄光、至高の善なる者にあれ≫
-演奏用途不明-
ラミン盤(1949年聖トーマス教会での録音)
指揮:ギュンター・ラミン(トーマスカントール)
ライプツィヒゲヴァントハウス管弦楽団
ライプツィヒ聖トーマス教会聖歌隊
ロッテ・ヴォルフ=マトイス(アルト)
ゲルト・ルッツェ(テノール)
フリードリヒ・ハーテル(バス)
学校の先生が生徒たちを前に〝気を付け″の姿勢を崩さず、厳粛な気持で歌っているような第七曲アルトのアリアが微笑ましい。独奏フルートが寄り添う旋律も印象的。「誠を尽くす」の意義を知覚するには、これを聴くだけでも価値があると思う。
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