先達ても書いたとおり我国の童謡・童歌・唱歌の類と言えば、翳りある部分が出てきたり、曲全体が物悲しいものさえある。勝手な推量ながら、諸外国には殆ど例をみないように思う。
その一例に『ナコちゃん』がある。戦後作られた童謡のナンバーワンに推したい名曲である。
ナコちゃん
歌;伴久美子(1942-1986)、安西愛子(1917-2017)
武鹿悦子(1928-)作詞/足羽章(1912-1999)作曲
ナコちゃんてよんだの だれかしら
まあるいまるい お月さま
ほらほら そうかも知れないわ
お空でにっこり わらってる
ナコちゃんてよんだの だれかしら
やさしい夜の 風かしら
ほらほら そうかも知れないわ
おリボンゆすって にげてった
ナコちゃんてよんだの だれかしら
ねんねのくにの ふえかしら
ほらほら そうかも知れないわ
おめめをさすって きえてった
この曲を初めて耳にしたのは、何時頃だったか忘れてしまった。しかし、おそらく昭和20年代末頃たろう。歌詞からすると、一種の子守唄風なのかも知れない。作詞者は本来が児童詩人・文筆家なのだとか。また、作曲者は東京音楽学校(現;東京芸大)出身なれど、当時は日本コロムビア邦楽部門制作担当が本業に過ぎず、必要に迫られて武鹿氏の詩を自ら譜面にしたのかも知れない。
歌詞には何一つ出て来ないものの、何故か自分には冬の夜の情景に映って仕方がない。外は雪が降ってて凍てつく寒さだが、室内は暖炉があってホカホカといった“地獄”と“天国”の落差をつい妄想してしまう。したがって、小学校低学年(~昭和31年)の頃、子守唄になるどころかまるで正反対。外に居るのが【マッチ売りの少女】なら好いが、鬼か悪魔が待ち構えて居そうで、夜中にトイレへ行けないほど、まことに怖ろしかった。
もちろん今ではそんなことはないが、物悲しい曲調であることに変わりはない。歌う伴久美子さんが夭折(享年44歳)されたと知ってるからか。他の関係者はみんな長命なのに。それとも旋律のせいだろうか。伴さんはTV時代に入ってからも、三共製薬の風邪薬「ルル」のCMに出ていたので、よく見掛けた。
共演の高原駿雄は、連続放送劇『日真名氏飛び出す』(KRTV=現TBS/昭和30年)で泡手大作役を演じてた人。因みに、このドラマのスポンサーが三共製薬というわけ。そうした誼からの出演だろう。YouTube投稿者のコメントに依れば、昭和32年の映像とか。未だ富裕層しかテレビがなく、放送局も少なかった頃ながら、視聴率70%を超える放送回もあったという(←CMでなくドラマの話)。
伴さんの澄みきった歌声は、ほかのどんな童謡歌手よりも好きだったなぁ。
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