昔(昭和30年代半ば頃まで)は、ハリウッド張りミュージカル擬きの歌と踊りを主体とする歌謡映画が結構あった。起源が何時頃なのか詳らかでないが、少なくとも戦前の活動写真時代からあるスタイルらしい。その中に「狸御殿シリーズ」がある。映画監督の木村恵吾原作になる「オペレッタ喜劇」というジャンルなのだとか。戦前のオリジナル版『狸御殿』以降、今世紀に入ってからの『オペレッタ狸御殿』まで映画社横断的に全8作が作られている。
1.狸御殿(昭和14年;新興キネマ)
・木村恵吾監督、佐藤顕雄音楽
・出演;高山広子、伊庭駿三郎
2.歌ふ狸御殿(昭和17年;大映)
・木村恵吾監督、佐藤顕雄音楽、サトウハチロー作詞
・出演;高山広子、宮城千賀子
3.春爛漫狸祭(昭和23年;大映)
・木村恵吾監督、服部良一音楽、西條八十作詞
・出演;喜多川千鶴、草笛光子
4.花くらべ狸御殿(昭和24年;大映)
・木村恵吾監督、服部良一音楽、木村恵吾作詞
・出演;喜多川千鶴、水の江瀧子
5.七変化狸御殿(昭和29年;松竹)
・大曽根辰夫監督、万城目正音楽、石本美由紀作詞
・出演;美空ひばり、宮城千賀子
6.大当り狸御殿(昭和33年:東宝)
・佐伯幸三監督、松井八郎音楽、木村恵吾・中田竜雄作詞
・出演;雪村いづみ、美空ひばり
7.初春狸御殿(昭和34年;大映)
・木村恵吾監督、吉田正音楽、佐伯孝夫作詞
・出演;若尾文子、市川雷蔵、勝新太郎
8.オペレッタ狸御殿(平成17年;松竹)
・鈴木清順監督、大島ミチル・白井良明音楽、浦沢義雄作詞
・出演;章子怡(チャン・ツイー)、オダギリ・ジョー
所有作品は6と7だけ。しかし、どちらも歌あり踊りありで実に愉しい。木村恵吾の名前は原作者としてしかクレジットされないものの、特に前者を気に入ってる。とりわけ次の歌は、デュエット曲中の最高傑作だと思う。歌詞内容から当該映画のオリジナル曲だろうが、残念ながら何も表示されないため曲名など詳細不明。
(山田真二)
風に吹かれて 嵐にうたれ
この身は何時も 旅ゆく定め
あ~ 何時までも 何時までも
今日の幸せ 忘れるものか
君は今何処 独り旅
(雪村いづみ)
燃えてさすらい 逢い寄る心
熱い吐息に 月さえ曇る
あ~ 愛し君 愛し君
胸に誠の 愛さえあれば
今別れても また逢える
(山田)
男の心は 強くて弱い
(雪村)
今宵あの月 祈りで見れば
(山田)
あ~ しみじみと しみじみと
(雪村)
泣けてくるのよ 泣けてくる
(山田・雪村)
君忘れじの 流れ鳥
蛇足ながら、木村恵吾監督作品に『お夏清十郎』(昭和21年;大映)がある。こちらは高峰三枝子、市川右太衛門主演の大真面目な映画だが、音楽が何と大澤壽人(1906生-1953没)なのだ。主に戦前・戦時中に活躍した超モダンな作曲家である。ナクソスレーベル「邦人作曲家シリーズ」に名を連ねており、そのCDも保っている。バッハ、ベートーベン、モーツァルトさんらも好いが、何せ“オラが国の楽士さま”ぢゃけん、また格別ぢゃのぅ。
大澤壽人作曲『交響曲第三番』(昭和12年)第三楽章
飯守泰次郎指揮関西フィルハーモニー管弦楽団
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