クラシック音楽界の年末恒例行事がベートーベン『第九』演奏会とするなら、本邦独自の年末行事と言えば『忠臣蔵』。地上波、BS、CSを問わず『忠臣蔵』三昧。そこで、所有する『忠臣蔵』関連映画を採り上げてみよう。
1.元禄忠臣蔵前篇(昭和16年;松竹)
演出;溝口健二、音楽;深井史郎、原作;真山青果、脚色;原健一郎、依田義賢
出演;河原崎長十郎、嵐芳三郎、小杉勇、市川右太衛門、三浦光子、山岸しづ江
2.元禄忠臣蔵後篇(昭和17年;松竹)
演出;溝口健二、音楽;深井史郎、原作;真山青果、脚色;原健一郎、依田義賢
出演;河原崎長十郎、中村翫右衛門、市川右太衛門、河原崎国太郎、高峰三枝子
上記二作は戦時中の映画。既婚女性のお歯黒姿が懐かしい。「皇国史観」に基づき、直接的表現を避けながらも時の東山天皇の大御心を窺うかのような台詞が頻出する。戦時中なれど、左翼系真山青果原作、河原崎長十郎主演なのが面白い。チャンバラや討ち入りシーンのない珍しい『忠臣蔵』。
3.赤穂浪士天の巻地の巻(昭和31年;東映)
監督;松田定次、音楽;深井史郎、原作;大佛次郎、脚色;新藤兼人
出演;片岡千恵蔵、市川右太衛門、月形龍之介、大友柳太朗、高千穂ひづる、進藤英太郎
我が『忠臣蔵』映画の原点。長い沈黙(無音)シーンが緊張を呼んで堪らない。
4.ほまれの美丈夫(昭和31年;東映)
監督;加賀山正徳、音楽;伊藤宣二、原作;五都宮章人、脚本;八尋不二
出演;伏見扇太郎、進藤英太郎、三笠博子、堺駿二、松浦築枝
四十七士の一人、神埼與五郎が主人公。浪曲(浪花節)仕立てになっている。
5.悲恋おかる勘平(昭和31年;東映)
監督;佐々木康、音楽;万城目正、原作;邦枝完二、脚本;依田義賢、斎木祝
出演;中村錦之助、千原しのぶ、喜多川千鶴、中村時蔵、原健策
『忠臣蔵』外伝、おかる勘平の悲恋物語。
6.誉れの陣太鼓(昭和32年;東映)
監督;井沢雅彦、音楽;小澤秀夫、脚本;土屋欣三
出演;尾上鯉之助、三笠博子、原健策、杉狂児、進藤英太郎
4と同じく神埼與五郎を主人公とする映画。これも浪曲仕立て。
7.刃傷未遂(昭和32年;大映)
監督;加戸敏、音楽;鈴木静一、原作;林不忘、脚本;伊藤大輔
出演;長谷川一夫、岡田茉莉子、勝新太郎、柳永二郎、山茶花究、小川虎之助
『忠臣蔵』とは真逆。指南役吉良上野介が、饗応役正使岡部美濃守にさんざんコケにされ、勅使の面前で赤っ恥を掻く話。愉快痛快。
8.赤穂義士(昭和32年;東映)
監督;伊賀山正光、音楽;高橋半、脚本;尾形十三雄
出演;月形龍之介、大河内傳次郎、伏見扇太郎、尾上鯉之助、喜多川千鶴
『忠臣蔵』外伝、浪速商人天野屋利兵衛の物語。浪曲仕立て。
9.忠臣蔵(昭和33年;大映)
監督;渡辺邦男、音楽;斎藤一郎、脚本;八尋不二、渡辺邦男ほか
出演;長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎、山本富士子、淡島千景、鶴田浩二、若尾文子
正統派『忠臣蔵』映画。有名な逸話が幾つも出て来てなかなか泣かせる。
10.忠臣蔵桜花の巻菊花の巻(昭和34年;東映)
監督;松田定次、音楽;深井史郎、脚本;比佐芳武
出演;片岡千恵蔵、木暮実千代、中村錦之助、大川恵子、進藤英太郎、市川右太衛門
この辺りから、浪花節的(泣かせる)要素が消え失せて行く。演技陣の大仰な涙過多とは裏腹に、観る側を感動させるより何事にも算盤尽くの商魂(エコノミックアニマル)逞しき時代に入ったことが窺い知れよう。
11.血槍無双(昭和34年;東映)
監督;佐々木康、音楽;鈴木静一、脚本;小国英雄
出演;片岡千恵蔵、大川橋蔵、花園ひろみ、大河内傳次郎、黒川弥太郎、山形勲
『忠臣蔵』外伝。俵星玄蕃が杉野十平次に討ち入り用畳返し槍術を伝授する物語。
12.赤穂浪士(昭和36年;東映)
監督;松田定次、音楽;富永三郎、原作;大佛次郎、脚本;小国英雄
出演;片岡千恵蔵、月形龍之介、大友柳太朗、丘さとみ、大河内傳次郎、多々良純
原作・監督・出演者は同じでも、何の「見せ場」もなく3に遠く及ばない。
13.忠臣蔵花の巻雪の巻(昭和37年;東宝)
監督;稲垣浩、音楽;伊福部昭、脚本;八住利雄
出演;松本幸四郎、加山雄三、原節子、三船敏郎、司葉子、市川染五郎、中村萬之助
出演者は豪華な顔ぶれだが、出来栄えは芳しくない。伊福部昭の音楽も平凡。
14.赤穂城断絶(昭和53年;東映)
監督;深作欣二、音楽;津島利章、原作;高田宏治、脚本;高田宏治
萬屋錦之介、三船敏郎、西郷輝彦、岡田茉莉子、三田佳子、金子信雄、丹波哲郎
現代風『忠臣蔵』。いろんな解釈があっていいと思う反面、「伝統」を逸脱した映画など観たくもない。
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