先頃、国鉄物ドラマを記事にした。その際、三橋達也・愛川欽也コンビの『西村京太郎トラベルミステリー』(テレ朝;昭和56年~)を比較的好むと書いた。目下、CS299テレ朝チャンネル2(有料)にて不定期再放送中で、これが視たくてチャンネル変更したほど。その中に、第18作『オホーツク殺人ルート』(平成2年)という正味2時間の長編版がある。自分は南国九州生まれなので、子供の頃から北国に憧れていた。学生時分の昭和44年に初めて北海道を訪れて以来、何れも昭和40年代春夏冬合計三度ほど独り旅をしている。貧乏学生・新米社員の頃とて宿代浮かすため連日夜行列車乗り継ぎのハードスケジュールだったが、若さゆゑか疲労困憊したとの記憶はない。道内は未だSL(蒸気機関車)が走っていた頃の話である。青函連絡船で渡ると、其所は【最果ての地】と呼ぶにふさわしい荒涼たる原野であった。ある時など、スチーム(蒸気)暖房の故障とかでその車輛が切り離されてしまったほど。以後今日まで、何故か北海道へ行く機会に恵まれない。
話を戻すと、そうした【最果ての地】という雰囲気が、ドラマの映像からはまるで伝わってこない。およそ20年の歳月が、斯くまで世の中を変えてしまうのだろうか。ドラマの犯人は飛行機で東京と犯行現場を往き来し、列車も青函海底トンネルで本州と結ばれ、舞台となる特急「オホーツク3号」は冷暖房完備の快適な気動車とあっては無理からぬことである。
移動手段としては、確かに改善されているのは間違いなかろう。ただし、この間の国鉄民営化(昭和62年)という一大転換期を見逃すわけにはいかない。ドラマでは、何かと言えば【国鉄(JR)時刻表】が出てくる。家捜ししたところ、我家にも4冊ありました。
1.国鉄時刻表-昭和58年(1983)10月号
2.国鉄時刻表-昭和59年(1984)9月号
3.JR時刻表-昭和63年(1988)3月号
4.JR時刻表-平成7年(1995)10月号
「1.」の時刻表には、【東京18:00→(ひかり31)→22:10岡山22:35→(彗星3)→7:00大分】と手書きされた社用箋が挟まっている。しかし、こんな旅行をした憶えはないから、計画倒れに終わったのかも知れない。索引地図によると、新幹線は東海道・山陽(東京-博多)、東北(上野-盛岡)、上越(上野-新潟)の三線だけで、長野・北陸、九州、北海道新幹線は未だ載っておらず、もちろん、東京-上野間の新幹線などない。また、青函トンネルや瀬戸大橋もない時代、北海道・四国へ行くには未だ連絡船に頼っていたことがわかる。
若かりし頃、国鉄全線踏破の大それた野望を抱いていた。北海道を旅したのはその一環でもあった。民営化の煽りを受けて赤字ローカル線が廃止されたことに伴い、若干の盲腸線(?)を残して野望は潰えたが、この時刻表では踏破済みだった全路線が未だ消えずに掲載されている。北海道に限って書くと、青函連絡船はおろか、踏破した松前線、江差線、瀬棚線、岩内線、胆振線、羽幌線、深名線、天北線、興浜北・南線、美幸線、名寄本線、湧網線、歌志内線、富内線、幌内線、士幌線、広尾線、池北線、白糠線、相生線、標津線の実に22もの路線が今や消え失せてしまったのだ。これに未踏破のまま廃止された路線を加えると更に増える勘定になる。
このドラマを指して言うわけではないが、今日に近づくにつれて劇中から季節感や生活感が抜け落ちていく気がする。要するに、喜怒哀楽や暑さ寒さのメリハリが乏しいのである。感情を押し殺したような抑揚に欠けた台詞回しと相俟って、アンニュイな(気怠い)雰囲気が横溢するばかりで、感動や共感といったものから懸け離れてしまったのだ。これでは、視る気が起こらないのも道理ではないか。尤も、世の中全体が益々便利になっていくのだから、これも当然かも知れない。
そこで逆説的な言い方になるが、昔の人は熟々偉かったと思う。というのも、今日我々が手にしているあらゆる【文明の利器】がなかった時代、何事も自らが行動を起こして成し遂げるしかなかったのだから。それに比べて現代人(おのれを含む)はどうか。見知らぬ他人の創作に成る電子機器や生活家電品のお世話になりながら、自分の能力だけで暮らしているかのように錯覚している。これらを召し上げられたら、おそらく生活そのものが成り立たなくなってしまうのではなかろうか。
*ご参考*
第23作-平成5年1月放送分
関係ないけど、本作を始め推理ドラマによく出ている山村紅葉さん(推理作家山村美紗の長女)、デビュー当時の映像を見るとかなりの痩せ形美人で、今とはまるで別人みたい。あ、あくまで体型のことであって、不細工になったなどと筆者の意図せぬ飛躍した深読みをなさらぬよう、くれぐれも宜しく。
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