《 第51話 》 「二つの顔の老婆」
【 あらすじ 】 お由は、あや子が何か秘密を握っているに違いないと考え、柳木邸に婆やとして入り込もうとする。松田警部は警戒して身元を確認しようとするが、お由から身の上話を聞かされたあや子は、作り話を信じてすっかり同情してしまう。
善良な婆やに化けたお由が柳木博士邸へ。
あや子 玄関扉越しに 「どなた?」
お由 「あの~う、ちょっと。職業紹介所から紹介されて参りましたが・・・。」
あや子 「ああ。」と扉を開けて表へ。
お由 「あの~う、お嬢様でらっしゃいますか。」
あや子 「はあ。あの、どなたさまですの?」
お由 「はい、あたし、職業紹介所でこちらで婆やを捜していると言われまして・・。はい。」
あや子 「あ、お手伝いの方ね。」
お由 「はい、身分はこれに書いてございますから。」
あや子 「じゃ、ちょっとお上がりになって。あ、松田さん。」
松田 「やあ、お嬢さん、何です?」
あや子 「これ。」と履歴書(?)を渡す。
松田 履歴書を読み上げて、ジロリとお由を見る。
お由 「はい、よろしくお願い致します。」と丁寧にお辞儀。
あや子 「とにかく応接室にお上がりになっていただくわ。」
松田 「そうですね。(お由に)入りなさい。」
お由 あくまで腰低く 「はい、それじゃ失礼致します。」
博士の部屋。
博士 「おお、誰だった?」
あや子 「婆やさんを紹介して・・・。」
博士 「婆やを?」
松田 「前のような事件もありますからね、大事を取ったほうがいいですよ。」
博士 「うん。」
あや子 「でも、人の好さそうな方だわ。」
松田 「いやあ、人相だけじゃわからんです。いちおう紹介所に問い合わせてみましょう。」
博士 「ああ、そのほうが安心だね。こうなれば、石橋を叩いて渡るほか手はない。」
我々は「婆や」をお由と知っているので、却ってあや子の人の好さが際立ち、いらいらしますね。松田はさすがに刑事さんです。職業柄というか、まず人を疑ってかかる、との鉄則があるようです。
ここでの教訓は、人を外見(だけ)で判断してはいけない、ということでしょう。一流会社・名門校等の「看板(ブランド)」や「肩書き(地位)」を欲しがる人ほど、看板・肩書きに惑わされ、つい騙されてしまうものです。本来の「人を見る目」とは、そうした“衣”を剥ぎ取った裸体の観察眼であって、これの涵養こそ肝要、と自分は考えます。
人を騙すのは悪い。しかし、騙されたほうに責任無しとは言えますまい。なぜなら、相手に騙す意図の有無に拘わらず、自分のほうから勝手に信用したことが、そもそもの騙された原因なのですから。判断ミスの責任が、騙された側に帰結するのは当然でありましょう。
ありがとうございました。
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