■ 第二十三課 舊師に送る手紙
謹啓。 寒氣甚だしく候處、益〃御機嫌よく入らせられ候御事と賀し奉り候。其の後、私事も無事に暮し居り候間、憚ながら御安心下されたく候。在學中御教授下され候事は、何れも皆有益なるものに之あり、殊に國語は日常の用事を辯ずるにも非常に便利にて、益〃深く先生の御恩の有り難きを感じ申し候。豫ての御教訓を守り、職業の暇には、少しづつにても書物を讀み、知識をみがき候樣心掛け居り候。時下御自愛專一に祈り奉り候。 敬具
同じく返事
御手紙拝見致し候。近頃は寒氣も一入相增し候へども、愈〃御壮健の趣賀し上げ候。自分も幸に無事に候間、御安心下さるべく候。貴君には、其の後も日々家業に御出精なされ、又、閑暇の節には讀書をもなされ候由、何より結構の事に候。尚ほ、今後も相變らず、御勵精相成るやう希望致し候。 草々。
・ 練 習
手紙の文には、次のやうにいろいろ變つた書き方があります。之を讀んでごらんなさい。
一、送り假名を省くもの。
申し上げ候……申上候 拝見致し候……拝見致候
賀し上げ候……賀上候 感じ申し候……感じ申候
心掛け居り候……心掛居候
二、假名の代りに、漢字で書くもの。
致したく候……致度候 甚だしく……甚敷
御座なく候や……御座なく候哉 候へども……候得共
三、漢字ばかりで書いて、反(かへ)つて讀むもの。
之あり……有之 下さるべく候……可被下候
祈り奉り候……奉祈候 相變らず……不相變
有り難く……難有
候文はとても書けませんが、読むにはリズム感があって好いですね。「有り難く……難有」ですか。おお、懐かしや。
この「練習三」の用法、戦時映画『元禄忠臣蔵』の字幕に頻出しますし、思えば自分の現役時分に男どもがよく使ってましたね。業務上外出する場合、伝言板に行き先と帰社予定時間を書いて出るのですが、帰社せず退勤する時は「不帰」と記していました。
事務員曰く、
「今日も不帰鳥(ほととぎす)ですか。」
だって。
つまらない話で、申しわけありません。
ありがとうございました。
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