■ 第二十三課 電 報
一
或る夜、京城に火事がありましたので、翌朝、信吉の叔父のところへ、元山の渡邊といふ人が心配して、電報で火事見舞いをよこしました。
サクヤノカジニゴブジカワタナベ
しかし火事は、信吉の叔父の家からは、よほど離れてありましたのです。
叔父は信吉に
「お前一つ、渡邊さんに上げる返事の電報を書いてごらん。」
と言ひました。
サクヤノカジニウチハヤケマセンデシタゴアンシンクダサイ
信吉「これでよろしうございませうか。」
叔父「それでは長過ぎる。電報の文は、成るべく、短く書かなければならない。言葉も、電報だから、あまり丁寧に書くことはいらない。又、成るべく、入らぬ言葉を省くがよい。」
サクヤウチヤケヌゴアンシンアレ
信吉「これでよろしうございませうか。」
叔父「それでもよいが、昨夜、火事のあったことは、もう御存じだから、『サクヤ』と書くには及ばない。又、『ウチ』といふことも入らない。電報は十五文字までが一音信で、濁った字は二字に數へられるのだ。うちの氏の和田を入れて、十五字より多くならないように書いてごらん。」
ヤケヌゴアンシンアレワダ
信吉「かうすると、ちょうど十四字になります。」
叔父「それでよろしい。それを此の賴信紙に書いてごらん。『ワダ』は發信人の欄に書いた方がよい。あちらの氏名や居所は何字あっても、料金はいらぬのだ。」
・ 練 習
一、釜山から平壤の自分の家へ、五日にかへることを知らせる電報の文をお書きなさい。
二、次の樣に、「さう」を「そう」、「せう」を「しよう」と讀むことに注意しなさい。
(イ)習ったさうだ。樂しさうに。話さう。さうして。
(ロ)勉強しませう。書きませう。分るでせう。いらないでせう。
よろしいでせう。
三、次の樣に、「かう」「たう」「なう」「はう」「まう」「らう」を「こう」「とう」「のう」「ほう」「もう」「ろう」と讀むことに注意しなさい。
行かう。勝たう。少なう。歌はう。讀まう。折り取ろう。
二
電報は、日本全國、大抵どこへでも出すことができるばかりでなく、又、外國へも出されます。僅かの時間に、遠い所と通信をすることが出來るから、まことに便利です。電報を出すには、郵便局へ行って賴むのです。
電報料は、一音信が、朝鮮内ならば二十錢で、内地へは三十銭です。何れも五字を增す毎に、料金が五錢づつ增すのです。
・ 練 習
一、電報料のことをお話しなさい。
二、渡邊から、和田のところへ、よこした電報の料金は、何程でしたか。
三
(一)信吉の叔父は商人であります。(口語體)
信吉の叔父は商人でございます。
信吉の叔父は商人である。
信吉の叔父は商人だ。
信吉の叔父は商人なり。(文語體)
渡邊は和田の親類なり。
これは火事見舞の電報なり。
(二)大抵どこにも郵便局があります。(口語體)
大抵どこにも郵便局がございます。
大抵どこにも郵便局がある。
大抵どこにも郵便局あり。(文語體)
こゝに賴信紙あり。
そこに筆あり。
(三)銀行の隣まで燒けました。(口語體)
銀行の隣まで燒けた。
銀行の隣まで燒けたり。(文語體)
叔父は信吉に電報の文を書けと命じたり。
信吉は電報を出したり。
(四)和田の家は燒けません。(口語體)
和田の家は燒けない。
和田の家は燒けぬ。
和田の家は燒けず。(文語體)
今日は雨降らず。
信吉は遊びに行かず。
・ 練 習
次の文語體を口語體に改めてごらんなさい。
(イ)これは普通學校國語讀本巻七なり。
(ロ)此の邑内には郵便所あり。
(ハ)貞童は電報を讀みたり。
(ニ)福童は缺席せず。
「仮名遣い」に加え、「口語体」「文語体」のことまで出てきて頭が混乱し始めました。
要するに「口語体」は話し言葉で、「文語体」は書き言葉という理解でよろしいのでしょうか。どちらかといえば、「文語体」のほうが堅苦しく、格調高く感じますね。自分は専ら「口語体」で書いているつもりですが、時々、折衷文になったりします。高い教養を備えた人には、見苦しい文章なのでしょうね。
ありがとうございました。
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