SP盤復刻による軍楽隊演奏を聴いて、清々しい気分に浸っている。そこには、かつての凛とした日本がある。今の弛緩しきった世の中と違い、適度な緊張のなかに身を置くことのすばらしさを実感する。身の危険が少ない時代だからこそ、言えるのだろうか。軍楽隊に限らず、SP盤の頃は、張り詰めた空気を感じる。“真剣に生きている”という雰囲気が伝わってくる。
軍楽隊にもお国柄が表れるようで、興味深い。「軍艦行進曲」を、日独の競演で聴き比べてみた。
イ.G・シャルフ指揮独逸ポリドール軍楽隊(昭和2年録音)
ロ.J・スナガ指揮独逸ポリドール軍楽隊(昭和4年録音)
ハ.藤咲源司指揮横須賀海兵団軍楽隊(昭和7年録音)
ニ.A・メリハル指揮伯林フィルハーモニー(昭和10年録音)
ホ.内藤清五指揮帝国海軍軍楽隊(昭和13年録音)
イは、ドイツ的な重厚な響きは感じるが、おとなしい演奏で迫力に乏しく、印象が薄い。ロは、今もパチンコ店で活躍する名盤。低音域の底力とシンバルの衝撃は迫力満点。チューバが鳴ると風圧さえ感じられ、吹き飛ばされそうになってしまう。ハは、残響のないデッドな録音であり、吹き損じも多くて楽器が生のまま聞える。まるでオモチャの楽隊が演奏しているように響き、思わず笑ってしまう。ニは、ヨハン・シュトラウスの作曲か、と錯覚するような。格調高い編曲と演奏。フルトヴェングラー時代のベルリンフィルにはまだ地方色が残り、柔かく黒光りする音色に、癒し系の温もりを感じる。ホは、これぞ大日本帝國海軍の演奏スタイル。音量で威圧する欧米の軍楽隊とは一線を画し、歌舞伎役者が大見得を切るように、一音ごとに隈取りをつけつつ、颯爽として小気味よく突き進む。鑑賞している間、切れ味の鋭い日本刀で、スパッと乾竹を割ったような、何ともいえない爽快さが感じられる。総じて、ドイツは“力”を誇示し、日本は“潔さ”を全面に押し出している、とみた。
「自衛隊」にも楽隊があるが、音楽隊というらしい。演奏水準は、旧軍を大きく凌駕する。ただ、“軍楽隊”の雰囲気に欠けるのが惜しい。
2006年3月7日(火)の記事
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